8章: Business Models and Intellectual Property
IP(Intellectual Property, 知的財産)には、特許や著作権、商標など、いろいろありますが、主に特許に着目しています。 特許を積極的に外部に許諾しながら、ビジネスを構築する方法について論じています。
特許について
IP市場の現状
- 特許ロイヤルティ収入は世界全体で15.6兆円にも達しており、米国、EU,日本がその90%を閉めている。米国は売り 4兆円、買い 1.3兆円で売り越し。 米国にとっての主要顧客は日本である。
- これだけの市場があるが、まだ特許の市場は十分でない。 企業が保有する特許のうち60%程度しか既存事業で活用されていない。
知的財産ビジネスについて考慮すべきこと
- 管理コストがばかにならない。 出願費用、国際出願のための翻訳費用、毎年の登録更新費用など。
- 権利行使するにもコストがかかる。 係争などは費用が莫大なので、最後の手段と考えるべき。 別の方法で、うまく自社利益につなげることを考えるべき。
- ほとんどの特許は価値がないものばかりである。(結果論に基づく分析)
- また、出願時点で特許の価値をすることは難しい。
発明者に対する報償の実態
- 多くの米国企業では、出願時点や登録時点において固定的な額が発明者に振り込まれるだけで、特許が実際に事業に供されたか否かに基づき報償するようなことはしていない。
- 出願時の報奨金の相場が6万円ぐらい、登録時の報奨金の相場がやはり6万円〜11万円ぐらい。
- 上記は少ないかもしれないが、特許の価値はその後のビジネス化の努力に大きく依存するとすれば、妥当といえる
ビジネスを優位化するIPマネージメントの事例
受託しながら自社IPを蓄える Millennium Pharmaceutical
- 研究を受託するCRO(Contract Research Organization)である
- CROと企業との一般的な契約では、研究成果はすべて依頼元の企業に帰属する。 このため、CROには成果は残らない。 Millenniumはこの問題を改善した。
- Millenniumは依頼元企業が特定の市場でしか研究成果を活かせていないことに着目した。 そこで、1994年のRocheとの契約では、肥満とタイプ2糖尿病に関する成果のみをRocheへ帰属させるが、他の分野へ適用される成果はMillenniumに帰属させる ことに成功した。 Rocheにとっても契約額を下げることにもなったので、よかった。
- Millenniumはその後も同じ形態で受託研究を行い、自社のIP ポートフォリオを築いていった。
IBMにおけるIPの活用法(本事業へ埋め込む)
- IPビジネスのためのエコシステムを構築する努力をしている。 例えば、パテントの流通性を高めるためにUSPTOのデータベースを基に効率的な検索機能を付加した検索サービスを提供している。 このサービスはDelphionという新会社としてspin-offした。
- 他社からチップ製造を受託するfabビジネスにおいて、使用するIBM特許に基づき利益を上積みしている。 fabレスの新興企業の多くはIntelなどの大企業と特許で戦うことはできない。 Intelから特許侵害で訴えられるリスクを避けるために、厚い特許ポートフォリオを持つIBMをパートナとすることを選択する。
- 同じようにCiscoやDellに対するサプライヤビジネスをする際に、IBMは特許ポートフォリオを自社の差異化要素としている。 他のサプライヤはIBM程の特許を保有していない。 IBMから調達する方が特許侵害のおそれは少なくて済む。
公開も打ち手の一つである Intelの事例
- 大学に研究資金を提供する場合には、研究成果が特許化された場合にもIntelは無償で使用権を得ることを条件としている。
- 権利化するよりも公開することを積極的に選択している。 Intel Technical Journalに掲載してしまう。ちょっと権利化したところで、どうせ市場は独占できない。 だったらさっさと公開してしまえばよい。 技術を普及させ業界を活性化させることにもなるし、他社が出願する可能性もつぶせる。 Intelにとって一番こわいことは業界のInnovationが減速してMoore's Lawが崩壊することであるので、自社権利化と同じくらい業界の育成が大事。
- Intel以外の会社にも公開の手段はある。 IP.comというサイトがあり、$155払えば技術を公開できる。
IPの価値評価方法
- 特許の値段をどうやって決めるべきか? それまでの研究開発コスト、代替技術を開発するためのコスト、先行事例として存在する類似特許について値段、どれも適切ではない。 結局はコンサルタントに評価してもらうしかない。
- 一般的にはIP保有企業が期待する額に満たないことが多い。 ビジネスモデルがはっきり見えない状態では買い手は安めの値段しかつけない。
考察: 特許だけでは価値がつかない
価値評価方法のくだりにおける「ビジネスモデルが不明な状態では値がつかない」という指摘、「企業の本事業のビジネスモデルに埋め込む形で特許収入を得る」というIBMの活用法などは非常に参考になります。 これらのことから、 ビジネス戦略、ビジネスモデルを明確にしたうえで特許を活用する策を考える ことが重要だと思いました。 7章の社内ベンチャー活動の話にも符合しますが、企業の知的財産部門が、企業の本事業とは無関係な状態で、「社内で役に立たない発明を有効活用しよう」とか、「とにかく知財収入をN億にしよう」という活動をしても、有効な活動にはならない、ということなのですね。