5章: From Closed to Open Innovation 論旨
5章は、自技術創出に偏っている研究所を顧客セントリックなインテグレーション活動へ転換させることに成功した企業として
IBMに着目し、転換のための施策を紹介しています。 ポイントは以下の通りです。
IBM研究所の歴史
- Closed Innovationの時代 (1945-1980)
-
- 大学のトップクラスの卒業生を研究所に雇い入れて、最高の研究所をもっていた。
- 研究所と事業部門との分離、独立性を維持することが、Innovation philosophyだった。
- Closed から Openへの環境変化 (1980-1992)
-
- いろんな大学でコンピュータサイエンス学科ができ、スキルが市場にあふれた
- DECの急成長によってVCが莫大な利益を得たことがきっかけとなり、コンピュータ産業にVCの資金が集まってきた
- 1992年にはワークステーション市場もPC市場も競争激化しており、IBMは苦境に陥っていた。
“各事業部門の動きを迅速化するために分社化が必要では?” などと言われていた。
Open Innovationへの改革
- 対処1: Join Program
-
- もともとIBMの研究所の資金は本社から割り当てられていた。 本社は各事業部門からオーベーヘッド費を徴収していた。 この従来スキームに追加して、各事業部門が直接資金を払うJoint Program のスキームを導入した。
- Joint Programの名前は“双方がコミットする”という考え方を反映したもの。 研究所はより事業会社のニーズに関心を抱くこと、事業会社が研究所の成果を”free”と思っておろそかにしないこと、を求めていた。
- Joint Programは4〜5年の事業開発で、事業会社側にプロジェクトチームを作り、そこに研究所の人間も机を持って仕事をする形態で行われていた。
- Joint Programの導入によっても、研究開発成果の事業化はスムーズにはいかなかった。 IBM研究所の研究員は一流の専門家だったので、かえってつぶしがきかなかった。 つまり、事業貢献できそうな隣の分野に活動をシフトさせることが難しかった。
- 対処2: インテグレーション活動へのシフト
-
- 顧客企業の幹部との意見交換やインターネットの社会インフラ化などがきっかけで、顧客のバリューチェーンに着目した。 顧客のビジネスオペレーションにおける課題を把握して、顧客のためにインテグレーションをすることこそが付加価値になることを発見した。
- 研究所も顧客企業の業務革新プロジェクトに参加した。(例; Citicorpにおける顧客情報管理の統合化、ある製紙企業のサプライチェーンマネージメントの効率化)
- IBMにとっては”IntegrationこそがIBMの提供価値なので、すべてのモジュールをIBM製品で提供する必要はなくなった。
- 製品自体も自社で売るのに比べれば自社の取り分は少なくなるが、開発のための投資も少なくて済むので、利益率は良くなった。
- 構築されたシステムのマネージメント(保守運用)をサービス化して、新たな収入源とできた。
- 対処3: 自社技術のオープン化
- 同時に自社のモジュール製品をオープンに市場で販売した。 自社製品の差異化はできなくなるが、モジュール製品のコスト構造が改善された。 結果的には、
自社製品の優位化と同時に技術開発投資の回収サイクルも短くなり、製品開発を加速化できた。
- 対処4: 知的財産ビジネス
-
- 技術、IPを他社にライセンシングすることを一つのビジネスとした。 2001年のIBMのライセンシング収入は約2100億円($1.9billion)である。
- クロスライセンシングで他社に自社権利使用を認める代わりに自社製品の設計自由度を確保する、
ことはかえってできなくなる。 だが、この犠牲に見合うだけの特許収入を得ることに成功している。
- 対処5: FOAK (First of a kind) Programの導入
- ビジネス的に重要でかつ技術的にも革新的なテーマについて顧客企業と共同で開発するための、先端的な顧客企業と研究所との間の共同研究スキーム。
契約が結ばれると、IBMの研究員が顧客企業の職場に常駐して、プロジェクトを進める。
- 対処6: 研究員に対する評価制度、人材管理の修正
-
- 学会発表や論文を書く能力だけでなく、顧客企業へのソリューション提供能力も研究員の能力として評価されるようになった。
- knowledge generatorだけでなくknowledge brokerとしての役割を強く求めた。 すべてのリサーチマネージャがある事業部門との関係窓口を担当している。 すなわち、リサーチマネージャは自分の研究G以外の成果も含めて、技術をコーディネートして事業部門に貢献する活動をしなければいけない。